人の心~脳科学から見てみた!
第1回 失恋したときの虚しさの正体は、ドーパミン低下だった

 

栗田先生
帝京大学医学部 栗田正教授

「心」はどこにあるのでしょうか。場所はともかくとして、心と脳の働きが深く関係していることがわかっています。心理学の世界でも、脳波やMRIでの研究も盛んだそうです。

「小さな親切」運動にとっても人の心は大きなテーマです。そこで、いろいろな角度から脳と心の関係について考えてみたいと思います。

教えていただくのは、帝京大学医学部の栗田 正(あきら)教授です。

 

 

 

恋愛の初期に出てくる快楽ホルモン

私たちの脳にはいろいろな部位があります。大脳、小脳、前頭葉、側頭葉などなど、その部位によって働きは異なります。その中で、頭の前の方にある前頭葉は、人間の情緒に深く関わっていることがわかってきました。

例えば、他人と共感したとき。両者の前頭葉は同じように活動を始めます。詳しくは今後解説していきますが、第一回目のお題は「失恋」です。

誰でも何度かは経験しているでしょう。あのどよよんとした感覚、どうしていいのかわからず、無気力になっていく気持ちは、脳科学から見るとどうなのでしょうか。

「実はですね。恋をしているときというのは、脳の中にドーパミンという脳内快楽ホルモンが盛んに出るのです。ウキウキとして、人生がバラ色に見えるのは、この快楽ホルモンのなせる業なのです。ところが、失恋しますと、ドーパミンの供給が一気に下がってしまうのです。さらに、心を落ちつかせる脳内ホルモンに、セロトニンというものがあります。恋愛中、このホルモンは下がっており、失恋してもすぐに元に戻らないので「心の痛手」の回復が遅くなります。落ち込んでしまうのは相手を失ったことが引き金ですけれど、脳科学的に言えばドーパミンが下がっただけ。半ば『錯覚』ですね」

ガーン。心が痛んだように思えていたのは、実はドーパミン低下に過ぎなかったということなのですね。

「栗田先生、それじゃあ恋の代わりにドーパミン出す方法ないですか?」と編集部は突っ込んでみました。

ひとつのヒントは、おいしい食べ物でした。大好きなおいしいものでも食べて、好きな音楽を聴いたりすることで、少しはドーパミンが出てくるようです。そういえば、失恋したときに、甘いものが欲しくなったという経験もあったような。それで太ってしまったら、危険なスパイラルですけれど。

「先生、お酒は?」
「ダメですね。お酒でドーパミンは出ません。脳の動きが鈍って、思考がおぼつかなくなるだけです」

ということですので、お酒に走っても解決にはなりません。このお酒と脳の話も面白いのでいずれご紹介します。なお、最も手っ取り早い回復は、次の恋愛をすることです(栗田先生暴走!)、とのコメントもありました。

 

ドーパミン供給が減った後、恋愛を続けていくには?

でも、栗田先生は面白いことを教えてくれました。恋愛の初期、人間は相手とは関係なく、ある意味で独りよがりにドーパミンを出すそうです。仮に『勝手にドーパミン現象』と名付けましょう。ただ、恋愛関係が続いたとしても、いつまでもその状態ではいられません。やがてドーパミンは元の状態まで減っていきます。
ふと我に返り、相手も見返して「なんでこの人が良かったのだろう」と冷静になってしまうのは、そんな時期なのです。

「ですから、ドーパミンの後押しがなくても関係が続くようなお付き合いをしなくてはならないんです。それには、いっしょにさまざまな体験をすることです」

共通の時間、共通の体験を重ねていくことで、先に述べた『共感』が増えていくのです。これがドーパミンに代わって二人の心をつないでくれます。
例えば、高校野球のチーム。勝利を重ねることでチームワークが強まり、才能が伸びていくという話をよく聞きます。勝利という快感、助け合う仲間意識、そして自己発現の達成感など、いろいろな心の体験がそれを支えているのでしょう。

「だから、遠距離恋愛というのはうまくいきませんね」(またまた栗田先生暴走!!)

なるほど。ドーパミンの切れ目が、縁の切れ目。ともいえますし、そこからが人としての本当のお付き合いになるともとれるわけです。
ちなみに、動物の場合、発情期でなければ雌雄が出会ってもドーパミンは出ません。人間だけが季節に関係なくドーパミンを出せるそうです。ということは、チャンスはいくらでもあるということ? そう思って次の「勝手にドーパミン」の機会を待ちましょうか。