認知症は一つではない
近年、有名人が認知症を公表し話題となりました。「ドラえもん」の声でおなじみの声優・大山のぶ代さん(2024年ご逝去)は、「アルツハイマー型認知症」、漫画家でタレントの蛭子能収(えびすよしかず)さんは「レビー小体型認知症」、俳優のブルース・ウィリスさんは「前頭側頭型認知症」を患っていることを公にしています。
認知症は、脳のどこがダメージを受けるかによって症状が異なり、アルツハイマー型認知症の場合は記憶を司る「海馬」、空間認識を司る「頭頂葉」がダメージを受けることで物忘れが進行したり、道に迷ってしまったりします。レビー小体型認知症は、視覚に関係する「後頭葉」が影響を受けるため、幻覚が現れるというのが特徴。前頭側頭型認知症は、人格や社会性に関わる「前頭葉」が損傷することで、急に暴力的になるなど、まるで人格が変わってしまったかのような症状がみられます。
厚労省が2014年に今後の認知症患者数を予想したデータによると、日本では2025年、65歳以上の12.8%が認知症患者となることが推測されています。医療の進歩によって長生きする方が増えた一方で、認知症の発症率は年々増加しています。
「親切」が生まれる脳のメカニズム
さて、ここからは「親切と脳の働き」についてのお話です。親切とは、「思いやりを行動に移すこと」。では誰かに親切にするとき、脳の中ではどんな働きが起こっているのでしょうか。
まず、困っている人を発見した場合、その状況を見て「助けが必要かもしれない」と考えます(想像)。次に、相手の痛みや苦しみをまるで自分のことのように感じます(共感)。そして、「何とかしてあげよう」と具体的に助ける方法を考え、行動に移します(計画・実行)。 この一連の働きに関わっている脳の部位が、おでこのあたりにある「前頭葉」。親切をする上で、非常に重要な役割を担っている場所です。
さらに、親切を実行すると、脳内に「幸せホルモン」が分泌されます。代表的なのは「オキシトシン」。人との触れ合いや温かい交流によって分泌され、仲間づくりや社会性を促すホルモンです。もう一つ大切なのが、「ドーパミン」です。親切な行動によって相手に喜んでもらえると、ドーパミンが分泌され「やってよかった」と自分で自分を褒め、満足感を得ることができます。
幸せは親切をする側だけでなく、親切を受けた側の脳でも分泌されますので、温かな社会づくりには欠かせないホルモンといえます。
認知症患者も「親切がしたい」
私たちはつい、認知症の方々を「サポートしてあげよう」と考えがちです。しかし、イギリスで行われたある研究(※)が、その見方を大きく変えてくれました。
施設に入らず、地域で暮らしているアルツハイマー型認知症の方々に、「あなたにとって最も大切なものを3つ選んでください」と20の単語が書かれたカードを選んでもらったところ、彼らが選んだ言葉は「Love(愛)」が最も多く、次いで「Kindness(親切)」、3番目が「Humor(ユーモア)」でした。
つまり、認知症の方々も、私たちと同じようにユーモアをもって、愛や親切を実践したいと願っているのです。しかし、社会とのつながりが失われることで、その機会を奪われてしまっているのが現状です。
「小さな親切」運動は、まさにこの課題に応える活動です。認知症の方々のサポートも大切ですが、「一緒に活動する仲間」として迎え入れることも、時には必要なのではないでしょうか。彼らが活動に参加し、誰かのために行動することで、社会的な役割を取り戻し、幸福感と生きがいを感じることができます。それは、認知症の進行を緩やかにする可能性も秘めています。
(※出典:Jachman V, et al. Aging Mental Health 2024;28:1090-9)
<監修者プロフィール>
栗田 正(くりた あきら)(帝京大学ちば総合医療センター脳神経内科客員教授)
1954年生まれ。東京慈恵会医科大学医学部卒業。同大学附属青戸病院 副院長、同大学東葛北部患者支援・難病センター長、帝京大学神経内科教授などを経て現在に至る。2018年、(公社)「小さな親切」運動本部理事。2024年、同副代表に就任。




