講師が語る、紙芝居の有効性と授業の効果

小学校で「道徳」が教科化されてから早1年、副読本から教科書になり、その他の教材も活用法を思案する機会が増えてきたのではないかと思います。運動本部では、10年以上前から道徳授業での紙芝居活用を推進し、全国の小学校でモデル授業を実施してきました。

今回は、道徳教育の専門家でモデル授業の講師でもある馬場喜久雄先生と宮島盛隆先生に、改めて、教材としての紙芝居の利点や印象に残っている授業について、お話をうかがいました。

まず、紙芝居が教材として優れているのは、どのような点でしょうか

馬場喜久雄先生
(全国小学校道徳教育研究会 顧問)

馬場:やはり、一番の利点は子どもたちがとても集中しやすいということではないでしょうか。これまで様々な学校・学級で授業を行いましたが、紙芝居の朗読中に集中が途切れたことはほとんどありません。子どもたちの視線があちこちいかずに一点に集中するため、話をよく聞き、その内容に引き込まれやすいのだと思います。子どもの個性やタイプを選ばず、広く活用できるというところもいいですね。現在の教育現場で、昔から残っているのは黒板と紙芝居くらい、と言われるほどですし、きっと紙芝居は今後も残っていくでしょう。

宮島:道徳の授業では、教材をどう示すかが重要なんですよね。教材は生き方を示すものですし、心に入らないと意味がない。つまり、子どもたちを引き込めるかどうかがポイントになってくるのです。少し話がそれますが、私は、人を大事にすること=人の話をうなずいて(受け止めて)聞くことだよ、と常々伝えています。「聞く」という動作は、相手や話の内容を理解するためには欠かせないものですからね。話を戻しましょうか。紙芝居はその名の通り、ある種の演劇で、演じ手と聞き手がいて、「聞く」ことが必要となります。対面ということで、ライブ感と言いますか、ぬくもりを感じることができますし、そういった意味でも、聞き手を話に引き込みやすいのかもしれません。子どもたちにどれだけ受け入れられるかは、その後の議論にも大きく関わってきますので、共感性が高いことも重要になってきますね。

では、実際に紙芝居を使用するときの注意点、使い方のポイントは何でしょうか

馬場:そうですね、子どもたちの視線を集中させるため、必ず「舞台」を整えてほしいです。先ほどお話しましたが、視線をずれさせないことは重要ですから。あとは絵を隠さないこと。市販の舞台があれば一番良いですが、なければ教卓など安定した場所の上で読む、譜面台を舞台代わりにする、などでも構いません。紙芝居を安定させ、手で持つ時には絵が隠れないように注意する必要があります。

宮島:しっかり「演じる」ということも大切ですね。感情の抑揚はもちろん、ページの抜き方なども工夫すると、子どもたちが、より話の中に引き込まれていくと思いますよ。紙芝居にはト書きがありますから、それを参考にしながら、できれば何回か下読みしておくといいですね。

馬場:演じることが難しい場合は、まず「声を届ける」ことを意識するといいと思います。

これまでの実施した授業の中で、印象に残っている授業を教えてください

宮島盛隆先生
(白百合女子大学 講師/道徳教育担当)

宮島:私は、『つなみのひ』を資料にして、山口県で行った授業ですね。子どもたちはこんな言葉を知っているのか、こんなに深く読み解いてくれたのかと感動したんですよ。村人が避難所で過ごす場面がありますが、そこで大人たちが、おにぎりを巡り言い争いになるのです。家族のために多く取ってしまった大人がいるんですよね。それに対して、「気持ちは分かるけど、でもあさましいと思う」という発言が出たときには驚きました。まず、あさましいという言葉がこんなにもスッと出てくるのかと。大人が思うより、子どもたちは言葉を知っているのだとうれしくなりました。そして何より、「気持ちは分かるけど」と、人間だれしもが持つ弱さに気づき、享受しながら発言してくれたことが、今でも心に残っています。共感性の高い紙芝居を活用したことが、より深い解釈につながったのかもしれませんね。

馬場:私が一番印象に残っているのは、色カードを使った山形県での授業です。同じく『つなみのひ』を資料としました。問いとして、「避難所で手伝いをするかどうか」と投げかけるのですが、この授業では「手伝いたくない」を選んだ子どもが少し多かったんですよ。発言してもらう形だと、やりたくないと思っていても、周りを気にして選ばれづらい選択肢なのですが(ゼロの場合も多い)、色カードを提示するだけにすると、人の目というのが少し和らぐのかもしれません。しかも、少数派が意見を出してくれるお陰で、全員がそれぞれの立場に立って考え、議論を交わすことができる。色カードを使うからこそ、引き出せる発言やできる議論があると、改めて実感することができました。

※色カード:しっかり手伝う=青、本当はやりたくないけど手伝う=黄、手伝いたくない=赤、その他=緑など、心情を色に例え、事前に配布した同色の色カードの中から、自分が思う色を選んで提示してもらう授業方法。

最後に、『つなみのひ』『まつりのひ』について、おすすめポイントがありましたらお願いします

馬場:「おもいやり」や「親切」というのは、いつの時代も大切にされるテーマですので、そうした内容を扱えるというのは、運動本部の紙芝居の良さにもなっていると思います。

宮島:個人的には、2011年の東日本大震災を材に取っていることが、他の作品とは異なり、いいインパクトになっていると思います。

馬場:大震災からもうすぐ10年が経ち、当時を知らない子どもたちも増えてきました。いろいろなご意見があるとは思いますが、そろそろ被災地域でも上演してもよいのかなと考えるがことありますね。

宮島:一方で、まったく災害時のイメージが湧かないという地域でもぜひ活用いただきたいです。以前、愛知県で授業を行ったことがありますが、子どもたちが「つなみの怖さを初めて知った。たすけあうことは大切」と感想を寄せてくれたことがありましたから。

馬場:紙芝居で追体験できると、いざという時の心構えにもなるのではないでしょうか。

お二人とも、ありがとうございました


『つなみのひ』 津波から避難してきた村人たち

『まつりのひ』 課題を乗り越え、村まつりは大成功!