第4章 被災地小学校の具体的な施策
防災教育最前線の取り組み

避難所になった宮古小学校の体育館

岩手県宮古市立宮古小学校。東日本大震災による大津波では、この小学校の校庭も3/4が浸水しましたが、校舎は無事でした。
体育館は250名ほどの避難民の避難所となり、60名ほどの児童もそこで暮らしました。当初、数カ月は避難所の運営は教職員に委ねられ、なかなか本来の授業を行えない状況となります。

その体験はいくつもの教訓を残しました。同校の青笹光一(あおざさ・こういち)校長は次のように語っています。

「大災害を生き延びるためには、まず健康であること、自立して判断できる力を養うこと。さらに、周囲への思いやりを持ち、郷土を愛する子を育てなければいけないと、私は感じています」

青笹先生の言葉は今、復興教育として実践されています。もちろん、被災地だからできることもあるでしょう。けれど、天災はどの地域でも起きえます。万一に備え、防災教育最前線の取り組みをご覧ください。

教育課程の中に、防災教育を溶け込ませる

「いわての復興教育プログラム」の一部

岩手県では「いわての復興教育プログラム」を策定しています。
(詳しくは、岩手県ホームページ からご覧いただけます)

「郷土を愛し、その復興・発展を支える人材を育成するために」と銘打たれているこのプログラムでは、「生きる」=生命や心の知識と育成、「かかわる」=家庭や地域との関係づくり、「そなえる」=防災や安全、の3つの視点から教育的価値を設定し、21の具体的な取り組み項目を挙げています。
例えば、「そなえる」の項目には、自然災害のメカニズムや自然災害の歴史などがあります。

宮古小学校でも、独自の教育課程の中にこの21項目を取り入れています。
一例をあげますと、「伝え合う」という項目については、国語の時間に話し合いの仕方や、調査したことを整理して書いてみるなどを学びます。
「かかわり合う」の項目については社会科で、地域の幹線道路の成り立ちと、震災後の復旧などをからめて教えています。
その他、「助け合う」は体育で、「人への思いやり」は道徳でなど、あらゆる時間で学び、考える内容になっているのです。

そして、学年ごとに各学期で、前述の21項目をどれだけ教えているか、などの分析も行っています。見せていただいた分析表には、21項目がバランスよく取り入れられていました。取り入れるというよりも溶け込ませている感じです。

この手法は子どもたちにも変化をもたらしました。ともすると、学校での勉強は何のためにするのかわからない子もいます。ところがこの学習プログラムでは、防災という身近で具体的な事案と直結するため、目的が明確になるのです。子どもたちの集中力は明らかに高まったそうです。

宮古小学校の復興教育学習プログラム(左)および教育的価値分析表(右)

家庭や地域をまきこむ

防災には、学校と家庭、また地域との連動が必要です。宮古小学校では、この点でも一歩踏み込んだ取り組みをしています。

①「我が家の津波防災計画」の作成

実際に提出してもらう「我が家の津波」防災計画

宮古小学校では、毎年児童の各家庭から提出してもらっています。
児童と保護者が地図上に自宅の位置を記入して、津波の際の避難経路や避難場所などの計画を出してもらうものです。2部を作成して、1部は家庭にもう1部は学校が保管します。これで、児童一人ひとりの避難方法を、学校が確認することができます。
さらに、児童が学校にいる間に津波が起きた場合、津波警報や注意報が解除されるまでは学校に待機させ、問い合わせや児童の引き渡しには応じない、などの取り決めも確認しています。
②「親子ハザード・ウォークラリー」の実施

親子で学区内を回り、ポイントをチェック!

親子で実際に学区内を歩く活動です。
児童にとって身近な学区内の危険個所、避難場所、消防分団、津波シェルターとして認定されている建物等を歩いて見て回るのです。
実際に歩くと、発見がたくさんあります。「こんなところに湧水があったんだ!」「ここまで津波が来たんだね」「この避難所は意外に遠いね」など親子で会話をしながら共通認識を高め、いざというときに役立つ情報を得ています。途中にはいくつものチェックポイントを設けて、ゲーム性ももたせています。
予定時間の60分間では、すべては回れませんので、また来年のお楽しみにもなります。
③ 市の津波避難訓練への参加

宮古小4年生が作成した参加呼びかけのチラシ

昨年からは、宮古市の「3.11津波避難訓練」にも積極的に参加しています。児童は津波避難訓練について学習し、保護者と教師は協力員として一緒に参加するのです。児童たちは一次避難所へ避難したあと、二次避難所である小学校の体育館に移ります。活動内容は、避難者の名簿の設置と記入、地区名の掲示、椅子出し、ござ敷き、毛布配り、炊き出しなど多岐に渡り、児童たちも手伝います。
しかし、被災地であっても『慣れ』は生じます。避難訓練への参加者は年々減っていました。児童たちはその事実を知ると、自発的に動き始めます。「みんな油断している」「近所の人に声をかけよう」「チラシを作ろう」「自分たちが頑張れば、大人の人も参加してくれるかもしれない」。児童たちからはそんな声が出て、実際に行動しました。その結果、参加者は再び増加したのです。
青笹先生は「子どもたちが自分のこととして考え、自発的に行動したことは、本当に頼もしく思いました。日頃の学習の効果は確かにあるとも実感しました。将来、またいつ起きるかわからない災害に向けて、自発的に取り組める大人、市民を守る大人になれるのではないかと期待しています」と語ってくれました。

終わりに

宮古小学校の校舎内には、児童たちが作成した津波や防災に関する掲示物がたくさんありました。階段にはその位置の海抜も掲示されています。これを毎日目にしていれば、自然と危機感と情報が身に付くでしょう。

青笹校長先生の話で心に残った話があります。
現地ではあちらこちらで復興工事が進んでいます。そこで、先生が授業の中で説明します。
「あの現場で働いている人たちは関東や関西から、来てくれているんだよ。君たちくらいの子どもの親もいるはずだけれど、この町のために何年もがんばってくれているんだよ」
その瞬間、子どもたちには見慣れた景色ではなくなります。人に感謝をする気持ち、人を人として見る姿勢、そして人を思いやる心構え。
防災教育は、効果的に人を育てる近道でもあるということがよくわかりました。

校内には、子どもたちが調べたもの、教えてもらったものなどさまざまな掲示物がある
各階段には、海抜の目安となるイラストが貼られている(中央)

※ 国土地理院のWEBサイトでは、地域の標高が簡単に調べられます。
http://saigai.gsi.go.jp/2012demwork/checkheight/index.html

参考:
JR水道橋駅周辺の標高