第3章 地域とのネットワークづくり
顔見知りであるだけでも違う

山崎友子教授は、「防災は地域特性がとても重要です」と言われました。正しい防災知識を身に付けるには、住んでいる地域の地理や歴史、文化などを知る必要があります。発生しやすい災害も異なり、人口密度や道路状況なども地域によって異なるからです。
ですから、地域にネットワークづくりをしておくことは、どこにとっても大切です。と言っても、それほど難しい話ではありません。

こんな事例があります。
岩手県陸前高田市の広田中学校では校舎が前回する被害を受ける中、教職員と共に避難行動を取った児童・生徒は、全員無事でした。
日頃の避難訓練や教職員の的確な指示に加えて、地域住民の援助が大きかったそうです。
周囲の地理に不慣れな教職員に、地域の市民が最初に避難した場所では危険であると伝え、さらに安全が確保される高台に案内したのです。
同中学校では、近くの保育園児の避難を助ける生徒もいました。こうした地域と一体となった避難行動が多くの命を救ったのです。

田老第一中学校でも、先生や生徒は保育園児やお年寄りの手を取ったり、背負いながら赤沼山に逃げ延びました。全員が無事でした。
「津波てんでんこ」の教えからいうと、頑張りすぎくらいの働きですが、普段からの交流がなければ、これほどスムーズにはいかなかったでしょう。

「早く逃げろ!と声をかけるにしても 、顔見知りかどうかで声のかけやすさや、相手の受けとり方がまったく違うと思いますよ」と山崎教授。
このように地域的なネットワークづくりとは、それぞれの組織の普段の交流から始まるのです。

そして災害文化は伝播する

岩手県教育委員会では、2011年より横軸姉妹校連携という制度を導入しています。
これは沿岸部と内陸部の学校を姉妹校としたもので、当初は被災地の支援の要素が強いものでしたが、徐々に交流に重点が移ってきました。
互いの学校を訪問して、バレーボール大会をしたり、給食を一緒にとるほか、アンケートをとったりプレゼンテーションなども行っています。

「同じ県内でも、やはり内陸と沿岸部では意識が違うようです。こうした交流を続けて、少しでも理解を深め合うことは大切です」
山崎教授には、忘れられない記事があります。田老第一中学校の生徒が、東京の学芸大学附属小金井中学校で語り部活動をした時の様子について、話を聞いた小金井中の生徒が産経新聞に投書したものでした。

『私は今まで、被災地に対してどんな支援をすればいいのだろうと考えていました。でも、実際にあった田老の子たちはとても元気で、復興への意欲にあふれていました。そして何より、自分たちの町を誇りに思っているのです。私は自分の住む町をこんな風には語れません。なんて恥ずかしいことだろう、と思いました。田老は私の憧れです』

と結ばれていました。
「交流することで、被災地からずっと離れた人にもその想いを伝播させることができるのです。これも災害文化の役割でしょう」

岩手大学と岩手県教育委員会が作成した、東日本大震災に関する報告書の概略書「TSUNAGU」
作成に携わった内陸部の高校生の声も紹介されている(右)

災害における学校の役割

東日本大震災では、被災地の学校は、津波が浸水したり、甚大な被害を受けました。
また一方で、地域住民の避難所にもなりました。第四章でご紹介する宮古市立宮古小学校も、校庭の半分まで水につかりましたが、校舎は無事で地域民の避難所になりました。

このように、災害時の学校は避難所指定に関わらず、本来の機能とは別の役割を担う可能性があります。
一時的にせよ、教職員が避難所の運営に関わることもあるでしょう。学校がなければ、子どもたちとその家族は別のところに行かざるをえません。それは地域にとっても復興の妨げにもなります。

先の熊本地震でも、学校が避難所となり混乱したことがありました。平時からいざというときの学校の役割について、行政や地域とすり合わせをしておく必要があります。
逆に、学校が地域に依存することもあります。教師は定期的に入れ替わります。必ずしも沿岸部生まれの先生が残るわけではなく、土地勘や歴史を知らないこともあるでしょう。地域住民の協力が必要になる場合もありえます。

運命共同体として、『地域社会のための学校』という意識を住民にもってもらうことが、大切になると山崎教授は指摘します。
これも普段の交流にかかわってくるのです。