中国 北京日本人学校 小学部 6年 佐藤 日南
「謝謝」
背中の曲がったおばあさんが、しわくちゃな顔をして手を合わせてすわった。
私は、お父さんの仕事の関係で昨年の9月から北京に住みはじめた。
日本で見る中国のニュースは、PM2.5や中国人のマナーの悪さ、私を不安にさせるニュースばかりだった。正直、海外に行けるうれしさより、心配なことばかりだった。
実際、昨年9月22日、どきどきしながら北京首都国際空港におり立った私の目の前の風景は、PM2.5でまっ白だった。
「ひなた、マスクをしなさい。」
と私に向かって言った。しかし、私はお母さんに言われる前にマスクを着けていた。とにかく不安だった。(この先、どうなってしまうのだろう)ということしか頭になかった。
そんな思いから私の北京生活が始まった。
その週の日曜日、私はバスに乗る機会があった。独特なにおいに包まれたバスの中で私は、ぼーっとしていた。
一人のはでな洋服を着たお姉さんが、むくっと立ちあがった。「請座」と言いながら、にこっと笑った。そうすると、背中の曲がったおばあさんがすわったのだ。
私は、お父さんの顔を見た。
「『請座』は、“どうぞお座りください”の意味だよ。」
と言いました。
私は、きんちょうしていた気持ちがほぐれました。私がニュースで見ていた中国とちがうところもたくさんあった。中国人は、子どもや老人にとてもやさしい。心からの気づかいができる。たまに大きな声でどなり合い、けんかをしていることもあるけれど、それもご愛きょう。日本人にはわからないけれどもコミュニケーションを取っているのだと思った。
私はまだ中国に来て十ヵ月ですが、中国人のやさしさにふれ、北京生活がどんどん楽しくなってきている。電車やバスに乗るたびに、まず第一に、お年寄りや赤ちゃんを連れている人はいないか、自然にきょろきょろしている。
そして自然に私も、派手なお姉さんと同じ勇気を出して、「請座」と言えるようになった。「謝謝」と言われたときには、とてもさわやかな気持ちになる。
今月、私は日本に一時帰国をする。心配にしているおじいちゃんやおばあちゃんや友達に、中国の良さ、中国人のやさしさをたくさん伝えていきたいと思う。
そして、日中の関係がよい方向に進むことを願っている。
審査員コメント
事件が起きたときの報道にはどうしてもフィルターがかかりますので、中国国民の実情というのはなかなか伝わってきません。
偏見をもってみてしまうことがお互いにあるでしょう。佐藤君もそうでしたが、事実を見て考えが変わりました。
派手なお姉さんの親切という表現が目をひきます。日本では見たことがなかったのでしょう。少し寂しい気持ちになりました。