「小さな親切」作文コンクール 入賞作品
〈第48回(令和5年度)・入選〉

「目には見えない大きな親切」

福井県 小浜中学校 一年  小松 結咲

私の住んでいる「西津」地区は、海と山に囲まれた美しい町だ。通っていた小学校には、代々続く伝統行事、「遠泳大会」があり、私はこの行事をとても楽しみにしていた。これは、その遠泳大会を通じて、私が地域の方々の「親切心」を知ることになった体験談である。

私は泳ぐのが好きで、何より海が大好きだから、遠泳大会はとても楽しみだった。けれど、予行練習の時に海にもぐると、

「ん、濁って何も見えないよ。いろいろな物が波にのって流れてきて、それが体にまとわりついて、気持ち悪いよ。」

みんな、口をそろえてそう言った。このことに加え、海岸にはたくさんのごみや網、倒木が流れ着いていて、きれいな海とは程遠く「西津の海で泳ぎたくない」と口にする友達さえいた。私は、いてもたってもいられず、家に帰って祖父に、この日の予行練習でのできごとを話した。

すると祖父は、

「そうかあ、汚かったか。でもな、毎日地域の方々がごみ拾いをしてくれているから、比較的きれいやと思うんやけどなあ。」

と言った。このときの私は、あんなに汚いのに、そんなこと絶対にない、と思っていた。

しかし、とある休日、私が友人宅に向かう途中、思いがけない光景を目にした。地域の方々が、せっせとごみ拾いをしてくださっていたのだ。集められたごみは、意図的に捨てられたペットボトルから、外国から流れ着いたおかしの缶まで、様々だった。

地域の方々は、自らにはまったく関係のない、このきりのないごみを笑顔で拾ってくださっていた。私はこのとき、自分のこれまでの発言に大きな後悔と恥ずかしさを覚えた。自分は何もせず、目の前の現状だけを見てけなしていた西津の海が、実は地域の方々の手によって守られてきたのだ、と気づいたからだ。

翌週、私はもう一度、海岸へ足を運んだ。1週間前と変わらず、地域の方々がごみ拾いをしてくださっていた。

「ありがとうございます。」私は、思わず声をかけた。

「あら、あなた。今度の遠泳でここで泳ぐの?楽しみにしているわ。」

この方々の行動は、私たち生徒のため、そして西津の海を守るためのものであり、決して「親切心」からくるものではない。けれど、私から見れば、思いやりが深く、みんなのために好意をもってのふるまいで、親切心に他ならない。「小さな親切」ならぬ、「大きな親切」である。

私は、この体験を機に、心にちかったことがある。それは、今ある海の姿を当たり前と思わず、見えないところで海をきれいにと行動してくださる方々に対する、感謝の気持ちを忘れないこと。

そして、私も親切心を意識しない、心からの思いやりのある行動で生きていこう、と。

コロナ禍の子どもたちが教えてくれた“大切なこと”

令和3年(2021)度の「小さな親切」作文コンクールは、通常テーマ「小さな親切」に加えて、特別テーマ「コロナが教えてくれたこと」を設けました。 “ウィズコロナ”が日常となった子どもたちの作文には、幸せの本質や人の心の在り方など、大切なメッセージがたくさん詰まっていました。

特別テーマに寄せられた作文の傾向を一部ご紹介します。

“当たり前”が幸せ

圧倒的に多かった作文のテーマは、コロナ前の日常が「いかに幸せだったか」気づいたというもの。学校行事や修学旅行に加え、人生の節目となる入学式や卒業式、一生懸命練習に打ち込んだ部活動の大会などが中止となり、多くの小中学生が残念な想いを綴っていました。
コロナによって、一生の思い出となる機会がたくさん奪われてしまったことに胸が痛くなりますが、これまで当たり前のように過ごしていた学校や家庭での日常は、「決して当たり前ではない、とても幸せなものだったのだ」と気づいた子がたくさんいました。だから、これまで以上に、家族や身近な人に感謝しながら、一日一日を大切にしよう……と、彼らは前向きに”今“を生きています。
年を重ねた大人のように、達観した子どもたち。早くのびのびとした生活ができるよう願っています。

大人への批判の目

クラスメイトとの楽しい食事の場である給食の時間は「黙食」となり、友達と遊んだり、家族との旅行や外食もできなくなりました。学校や家で、様々な制限を強いられている子どもたちの「息抜きの場」は多くありません。
そんな中、テレビで目にするのは、緊急事態宣言中にも関わらず、路上や居酒屋で遅くまで飲み、ハメを外す大人たちの姿。自分たちは感染しない・させないように、いろいろな我慢をしているのに、なぜ大人はルールを守らないのか、と怒りをぶつけている作文もありました。
また、「コロナ差別」「自粛警察」など、他人を攻撃する人に対しても厳しい意見が。「憎むべきはウイルスであって、人ではない」と、多くの子どもたちが相手を気遣う心の余裕を持つよう訴えています。
本来、子どもたちのお手本であるべき大人。我々の言動・行動は常に子どもたちに見られていることを忘れずにいたいものです。

“人の心”を教えてくれたコロナ

家族や身近な人がコロナに感染したり、濃厚接触者になった体験を書いた作文もいくつかありました。通っていた幼稚園で感染者が出たため、濃厚接触者になった妹に、思わず「近寄らないで!」と言ってしまった小学生は、幼い妹を傷つけた罪悪感でいっぱいになりながらも、自分の心を見つめ、差別は決してしてはいけない、コロナが「人の心」を教えてくれた、と綴りました。
不安や恐怖によって生まれてしまう「差別の芽」。それを摘むことができるのは、唯一「人の心=思いやりの心」だけ。コロナに打ち勝つためには、「人の心」を失ってはならないと多くの子どもたちが気づいてくれたことは、嬉しい限りです。

過去3年間の入賞・入選者はこちら

第48回(令和5年度)入賞・入選者【PDF】
第47回(令和4年度)入賞・入選者【PDF】
第46回(令和3年度)入賞・入選者【PDF】

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